【寄稿】
       TQM活動への期待        
                      松江赤十字病院 院長 武田 博士

平成10年末から、繰り返し発生した異型輸血事故のために松江赤十字病院は危機管理体制の見直しを迫られ、平成10年12月16日付で急遽滋賀県立成人病センターから異動となりました。テレビ、新聞などマスコミで大きく報道されましたからご存知の方も多いかと存じます。

 着任時既に輸血業務を始め院内業務の適正化、安全管理のためにリスクマネジメント委員会も結成され、各種業務のマニュアル作りも進んでいました。過去に繰り返された事故の反省にたって、特に輸血業務については立派な手順書が作られていましたが、平成11年5月7日三度目の異型輸血に見舞われてしまい患者様、ご家族の皆様にご迷惑をおかけすることになりました。幸い医学的には支障のない異型輸血でしたので患者様には身体的な障害を及ぼすものではなかったのが何よりの救いでしたが、それに致しましても事故を反省している最中に同じ過ちを繰り返すという信じられないような経験を致しました。

 この強烈な体験から、毎日の医療業務の現場には事故という落とし穴が無数に潜んでいて、それを回避することがどんなに大変なことか改めて思い知らされました。同じ系列病院であります武蔵野赤十字病院が良いお手本としてありましたから、それに習って平成10年11月にはリスクマネージメント委員会も発足しておりましたしそれなりに機能していたわけですが、マスコミ報道に翻弄される中その場の対応に精一杯でしたから、輸血業務の把握もリスクの分析も不十分ですしその結果現場での改善も徹底せず同じ過ちを繰り返したものです。良質の医療を提供することが強く求められている今日、事故予防は病院全体組織をあげて取り組まなければなりませんし、職員一人一人の強い自覚が求められています。良い成果として、インシデント・アクシデント報告書も徐々に増えてきておりますし、その分析も進み現場へのフィードバックも少しずつではありますが実を結ぶようになってきております。

 こうした危機的な状況下、昨年11月9・10日に津田塾ホールで開催された第1回フォーラム「医療の改善運動〜信頼される医療を目指して〜」に参加させて頂き、一つの進むべき道が示されたことで大変な心の安堵を頂きました。代表幹事の上原鳴夫教授は京大外科教室の同門でしたし、飯田修平院長も著作で存じ上げてる方でしたので、とても心強く感じました。私どもTQMに取り組み始めたばかりですから、成果を発表するところまでには至っていませんが、日本医療機能評価機構の審査も来年中に受けられるよう院内業務を見直しておりますので「医療の改善活動」に積極的に参加していく所存です。