医療のTQM推進協議会 |
Vol.5 November |
News Letter |
|
シンポジウム “欧米医療における質改善の取り組み”に参加して 宮里不二彦 前沖縄県立那覇病院長 最近の医療界における最大の課題である医療事故を真正面から取り上げ医療の質を改善することが医療事故の減少、予防につながることを強調した非常に刺激的なシンポであった。しかも医療の質を改善するためには産業界が以前から取り組んできた品質の管理(QC)の手法が非常に役に立つことが強調された。その意味で東京理科大学の狩野教授による講演ではQC手法の変遷・改善を非常に分かり易く解説され、小生のような門外漢でも十分に理解できた有益な話であった。 基調講演者のD.バーウイック氏は公衆街生の学位を持つ小児科医である。その膨大な文献リストを一覧すると実に多くの分野の疾患の検査法、治療の有効性の検討から始まって、最近は医療の質の改善に向けてその必要性手法などについて実に精力的に発信していることに驚嘆する。米国における医療の質改善の運動は1975年にQCのパイオニアであるデミング氏と医療界との出会いから始まったようである。1989年には全米的な医療の質改善に向けたフォラムが開催され始めている。更に医療の質の改善を強力に推進するためにバーウイック氏が中心になってボストンにInstitute for Healthcare improvementが1991年に設立されている。このような素早い動きは正に機会の国アメリカの面目躍如たるものがある。そこを拠点にして数年来教育セミナーを米国内はもとよりヨーロッパなどでも実施されており、数千人の聴衆が参加しているとのことである。本年12月にはサンフランシスコで第12回の全米医療改善フォラムが開催される。 更に1995年からは単なる教育講演に留まらず、具体的な医療の質改善運動(Breakthrough Series)を米国の各地域で実践している。その若干のテーマを見ると医療サービスにおける待時間や無駄の解消、医療事故を減少させて患者の安全性を守るというような非常に日常的な課題に取り組んでおり、その成果が着実に上がっているとのことである。その他の若干のテーマを上げると糖尿病、喘息、ターミナル患者のケアの改善など、すべて日常的な医療である。先端医療よりもごく日常的な医療の質の改善が国民の健康、福祉の増進、改善につながるという強い信念が伺えた。 バーウイック氏の講演第二部は患者の安全の向上に関するもので、第一部と同種極めて感動的な講演であった。1999年11月29日は米国の医療の改善に関して歴史的な日である。その日に米国科学アカデミーの医学部門から患者の安全に関しての報告が出されたのである。報告のテーマは“誰でも間違いを起こす”(To Err is Human)。この報告の内容はショッキングなもので医療事故による死者は年間5万から10万人で交通事故、エイズ、乳癌などによる死亡よりも多いと述べ、その改善の為に大々的な研究が必要であると強調している。この報告は全米のマスコミに衝撃を与え、大きく報道されたが何故か日本では余り話題にもならなかったようである。クリントン大統領も直ちにこの報告に応えて必要な措置を講ずるように関係当局に指示している。この報告の翻訳は近日中に出版される予定である。 バーウイック氏は安全な医療は医療の質改善の最も中心的な課題であり、関係者全員がその重要性を認識することが出発点であるという。多くの人間が関係する、医療の複雑なシステム(多くの工程)はエラーが発生する大きな可能性を持っており、エラーが発生するのはシステムの欠陥であると指摘する。医療の各部門がその関係する工程を標準化し、標準化した工程を実施することである。標準化した工程を忠実に実施するには絶えざる訓練とチェックが必要である。それが実行されていないために医療事故が発生するのである。まさにQCの手法が最も活用されるべき分野なのである。しかし、人間である以上誤りを100%無くすことは不可能であることを、我々は認識し誤りを少しでも減らすために努力すべきなのであろう。 その他にもパネルディスカツションで黒川清先生による明快な日本的医療の問題点の指摘、三宅祥三先生の武蔵野赤十字病院での組織を上げての医療事故予防活動など多く学ぶことがあったが、紙面の都合もあり省略させて項きます。 |
目次 |
シンポジウム“欧米医療における質改善の取組み”に参加して 前沖縄県立那覇病院長 宮里不二彦 |
|
(社)日本品質管理学会第79回シンポジウム「欧米医療における質改善の取組み」に参加して−取組む姿勢と土俵の日米格差に 改めて刮目− 西村昭男 |
|
第2回フォーラム「医療の改善活動」〜信頼される医療をめざして〜のご案内 | |
会員の活動紹介益田地域医療センター医師会病院(島根県) | |
会員病院の行事 | |